
みなさん、いかがお過ごしでしょうか。
タイも雨期に入り、水没間近のバンコクはいつになったら首都移転するのか、と考えたりするわけですが、考えなかったりもします。
さて、そんな憂鬱な天気が続くと、心までじめじめしてきて、子供の頃に記憶された泥だらけの心のタイムマシーンを開いてしまう事があったりします。
田舎の町に突然現れたスーパースター

その日はある日突然やってきました。
週一で開かれる全校集会で、直射日光の元、校長や教頭の誰に向って話してるんだか分からないつまらない話を鼻くそをほじりながら前の奴にくっつけていると、お待ちかね、転校生紹介コーナーがやってきました。
我が町は、近隣地方都市へのアクセスの良さ、土地の安さから転校生が毎週のようにやってきていたのですが、その日、僕のクラスに転向してくる少年は、人種のるつぼアメリカのニューヨークからやって来た大坪クン(仮名)でした。
アメリカと言えばカオパッドアメリカことアメリカ焼き飯しか知らなかった僕のクラスに、その焼き飯本場のアメリカから来た少年が入って来る事になった…それだけでもにわかには信じられないのに、大坪(仮名)少年の腕には見た事もない何かが光っていました。
それは「腕時計」というもので、常に規則正しく動くものを、我々の時間に当てはめて表示する円状の物体。革や金属などのバンドで腕首にまいて付けるというもので、掛け時計しか見た事のなかった僕にとっては、時を刻む何かを身に着けているというだけで、何か遠い惑星から来た異星人のようにも映ったのです。
『これがアメリカンドリームかー。おいらも腕に巻いてみたい。』
そんなちょっとした好奇心から、大坪クン(仮名)に聞いてみたのです。
「なんで時計してるの?」と。
すると、大坪クン(仮名)は大声で泣き始めてしまったのです…
そんなつもりじゃなかったんだ…今でも引きずるその思い

アメリカからやってきた元ニュヨーカーの大坪クン(仮名)。ニューヨークと言う摩天楼から、日本の片田舎の小学校に来た緊張感たるや、想像に難くありません。
腕時計をしている事を珍しがられ、緊張の糸の上を一歩一歩歩みを確かめるように綱渡りしていたのに、意表を突かれて墜落してしまったピエロのようでした。
当然、翌日から大坪クン(仮名)は腕時計をしてくる事はありませんでした。腕時計はきっと引き出しの奥深くに収納され、大坪(仮名)少年から声が掛かるのを今か今かと待ち望んでいたに違いありません。
排他的な気持ちで言った訳じゃないけど、それが本人にどう伝わっていたかは別問題で、数十年経った今でも、床に就く前にあの日の事を思い出す事があります。